DOTAMA
「音源原理主義者なんですよ」
会社員勤め10年を経てラッパーとして活躍するDOTAMA。
“続けること“から学ぶ彼のラッパー論とは。
「会社員×ラッパー」の代表的存在で『フリースタイルダンジョン』でもモンスターを務めたDOTAMAさん。10年の会社員を経た彼だからこそ築けた『ラッパー・DOTAMA』の根源を紐解く。
インタビュー動画はこちら
ラップと出会ったのは中学生の時です。
今も盛り上がってるんですけど、当時はCDも何百万枚とか売れていたのもありまして、音楽シーン自体がものすごく盛り上がっていて。96年に日比谷野外音楽堂で行われた「さんぴんキャンプ」という、日本のヒップホップシーンでは伝説の音楽イベントがあるんですね。田舎の小学生だったから僕はその直撃世代ではなかったんですけど、96年の「さんぴんキャンプ」で盛り上がったヒップホップシーンのアーティストさんを見て僕はラップの世界に入ったんですよね。
── 周りの友人とかはきっかけにならなかったんですか?
当時はヴィジュアルバンドブームもあったので、ヒップホップ聴いてる人が少なかったんですよ、周りに。幼馴染が唯一のヒップホップ仲間でした。今みたいにSNSもなかったんで、情報があんまりなくて、本屋さんにある音楽雑誌、今は休刊中のヒップホップ専門誌を読んで情報を仕入れて。二人でずっとお互いの家を行き来して、色んなヒップホップのレアな音源とかを聴き漁ってましたね。
ラッパーを職業として意識したのはいつぐらいですか?
高校卒業して、会社に勤め出した時と同タイミングでしたね。
ヒップホップでご飯を食べたいって思ったんですけど、ちょっと不器用だったのか、会社に勤めながらやろうって思ったんですよね。普通に音楽一本で頑張ればいいんですけど、なぜか地元に根を張って会社に勤めながら音楽もやっていこうと思ったんですね。
なんでかっていうとちゃんと理由がありまして。ヒップホップはレぺゼンっていう文化、文化というか自分の生まれ育った故郷を代表する。自分の生まれ育った場所はここだと、主張する、誇りにする。自分の中に生きてるっていうのを、音楽表現にする思想があるんですけど、ざっくりいうとローカリズムみたいな。それはすごいヒップホップのマナーとしてあったので、僕はそれを自分なりに咀嚼してやろうとしたときに、地元で会社員で勤めながら、音楽表現をやるのがヒップホップの生き方なんじゃないのかなと思って、勤めたと同時に音楽制作の活動も始めたって感じですね。
正直に申し上げますと、そこまでポリシーがなかったんですよ。若かったし。
あと、独身の男性社員で田舎で20代の社員っていうとなんでもやらされるんですよ。こんなこと言ったら怒られちゃうんですけど。「福島君(DOTAMAさん本名)これもお願い」って言われて。 人に必要とされるってどんなお仕事をしてても嬉しいじゃないですか。 職場で「あれもやってこれもやって」って言ってもらえるとありがたかったし、会社勤めは楽しかったんですよ。でも、チグハグなんですけどヒップホップでご飯を食べたい気持ちもある。 音楽で生計を立てたいとは思いつつも、会社勤めで色々呼んでいただいたりとか頼りにされることにもすごい快感があって、両方楽しかったんですよね。だから、両方平行してやってたってところがありましたね。
会社(ホームセンター)で楽しかったことは、やっぱり自分が作った売り場の売上が高かったりとか、直球的な言い方になってしまいますけど、僕が接客したお客様がたくさん買って下さったりとか。例えば、外の資材コーナーも担当してたんですけど、五色砂利っていういろんな色が入ってる砂利があって、お客様に「庭に五色砂利を敷き詰めたいんだけど」って言われたんですね。で、本当は(お客様は)庭の一部だけをそうしたかったんですけど、「こう詰めて、こういうお庭造りしたらすごい綺麗になりますよ」っていうのを説明させてもらって、「あっじゃあそうするよ」って仰ってもらったら、配達も僕がしますと。丁寧に接客して、当初の予定額より売上が上がると、それはすごい嬉しかったですね。
きつかったこと、うーん、、、実はかなりタフなんですよね。だから続けてこれたってのもあるんですけど。10年サラリーマンと並行しながら音楽作ってたって、結構タフだと。自分でも振り返ってみるとよくやってたなって思って。正直に言うと「時間」ですね。拘束時間。本当にありがたいんですけど、「朝8時30分にお店の開店準備をして欲しい」って言われて行って、そこからずっと日が暮れて閉店までの7時8時くらいまで残ってるっていう。それが何でしょう・・仕事にやりがいはあったんですけど、別に時間を無駄にしてるっていう概念は一切なかったんですが、やっぱり長いなって感覚はありました。そこから家に帰ってごはん食べてじゃあ曲作るかってなるから、それ(時間が長いなって感覚)はありましたね。
あと、やっぱり休憩時間。
休憩時間のたばこは、それはそれで一つのコミュニケーションになってるじゃないですか。喫煙する方って。それはすごい良いことだと思うんですけど、僕全く吸わないからその時間がちょっと待ち時間みたいになっちゃって。喫煙者の皆さんはちょっとむこう行って吸う。「福島君吸う?」「あ、ちょっと僕吸わないです」って言って、その間ちょっと、待ち時間みたいなのがもったいないとは思わないんですけど、微妙な時間になっちゃって。そういうのがもどかしかった記憶はありますね。
今「社会人ミュージック」っていう、自分が主宰している音楽レーベルで、楽曲をリリースさせてもらってたり、イベントをやらせてもらってるんですけど、インディペンデントなんですね。インディペンデントって聞こえはいいんですけど、少数精鋭でやって行くので、楽曲を作ってライブをして、ミュージックビデオを監督さんにお願いしたりとか、MCバトルへ出る時の準備だったりとか、あれこれやるんですけど、あの頃(会社員時代)も仕事を全部やらせてもらってたんですよね。今になってあの時の、一人で売り場をやらせてもらってたのが活きてるなって。それは本当に感謝してますね。
── それは新しいことでも目的に向かっていく習慣みたいな?
そうですね。何かしてないとっていう。こう、何かやりたくなる、作りたくなるっていうことが今に活きてるなって思いますね。
それは年齢もありましたね。20代後半になってきて音楽をもうちょっと頑張ってみようって。決して仕事に飽きた訳じゃないんですよ。あと20代後半になってくると、さっき申し上げた通り、経験が増えると頼りにしていただけるんですけど、役職も上がっていくじゃないですか。この資格も取ってこの仕事もやってって。本当におこがましいんですけど、いずれは管理職もみたいな。本当にありがたいじゃないですか。でも、そうなってくると責任が伴ってくる。ちょっとやっぱりそこはすごい考えてしまったんですよ。このまま残って責任ある仕事、、、いや本当にありがたいんですよ。機会をいただけるのはありがたいんですが、よりはもうちょっと音楽、本来、自分がベースとしてたものを頑張ってみようと、悩んで決断しましたね。
それから今のラッパー地位を築けた理由は何だと思いますか?
全然まだまだですが・・僕自身が続けてこれたのは“執念深さ”ですね。多分、執念深いんだろうなって。一曲を録るのに数か月かけたりとか。最初はただただ下手なところから始まってるからなんですけど、でも、ずっとこだわって作っていくっていうことがすごい好きで。それをずっと続ける、集中力ではないんですけど、忍耐力みたいなのは、職場でもいろんな仕事をずっとやり続ける10年間っていうので慣れてたので。本当に今、ラッパーをやらせてもらってるだけでありがたいんですけど、ふと冷静にかえったときに、なんだろうって思ったら、“執念深さ”なのかなって思いますね。ヒップホップの音楽性やアイデンティティ、ヒップホップイズムなどの全く関係ないところで、僕自身、自分自身のただただ執念深さってところで続けさせてもらっているのかなと思います。
── その“執念”はもっと高みを目指す執念なんですかね?
そうですね。“執念”ってネガティブな聞こえになっちゃうんですけど、例えば、楽曲を聴くときに、「こういうメロディ、こういうリリックの表現があるんだ!面白い!」とか、楽しむための執念とかもあると思うんですよ。MCバトルでも、即興でやりあってるわけじゃないですか。「こんなラインが出せるんだ!こんな面白いバトルがあるんだ!」みたいな。それを執念深く楽しむ、みたいな。楽しむことに対しての執念深さっていうのもすごいあると思うんですよ。
今も活動を広げていくDOTAMAさんから、主体的ではない方へのアドバイスはありますか?
おこがましいことは言えないのですが、“続けること”ですね。自分自身が体現してきたので。
さっきの楽しむ執念も大事なんですけど、僕の『働き方改革』って楽曲がありまして、「働きたくないけど働かなきゃいけないんだ」ってサビなんですけど、文字だけで見るとすごいネガティブじゃないですか。サビだけ切り取ると、働く人の応援ソングには聞こえないんですよ。「こんな職場クソだと叫びながら働こう」とかも。「働くことを応援してるの?応援してないの?どっちなの?」とさえ思われるかもしれない。でもそれは、働くことに対する感情の一側面ではあるじゃないですか。 今日のこの仕事はやりたくないんだけどな~って言いながらもやろうっていう。で、相対的に、その反対側にあるように『社会人』という楽曲は作ってあります。いろんな感情を持ちつつも続けていくことが僕は大事だと思ってて。
人生って色んな感情があると思うんですよ。働きたくない時もあるし、働いててすごい楽しいって感じる時もある。「この仕事やっててよかった!」って感じる時だってあるじゃないですか。それってその時々である。必ず両方あるんですよ。その両面をずっと続けてくことが大事で。辞めちゃうと両方ともなくなっちゃうと思うんです。僕は自分の作品で、一枚のアルバムで、結果としてですけど相反してる二つのメッセージが混在してるような作品を作ってきたんです。それこそが自分が働く人に言いたいことかもしれません。支離滅裂な感じになっちゃうかもしれないけど、良い気持ちも悪い気持ちも持ちつつ、でも続けてくっていう。それがすごい大事だなと。年齢も30代後半になってきて、実際続けられてるんですよね。10年サラリーマンをやらせてもらってたし、脱サラしてもありがたいことにずっと音楽活動をやらせてもらってる。それには感謝しかないし、何故だろうって今思ったのが“執念深さ”と“続けていること”。とりあえず続けてみることが大事だと思いますね。
── 続けることで得るものや気づきはありますよね。今の時代なかなか3年続けろとか言えないですが。
自分自身、何がどうっていうのは覚えてないんですけど、「10年間サラリーマンを続けていた」っていうのが自分の中で自信になっているし、プライドにもなってるんですよ。「じゃあ具体的に何が仕事に活きてますか?」って聞かれたら厳密には説明しづらいんですけど。あれをずっと乗り切ったっていうのが、自分の中では力や財産になっているなあと、今この年齢になって感謝してます。
ラッパーとしてどうやって言葉に磨きをかけてますか?
「言葉に価値を」って逆だと思ってて。ラッパーは「価値観を言葉にする仕事」なんじゃないのかなと。音楽表現として皆さんに楽しんでいただけるものだったりとは別で、ヒップホップそのものが元々そういう要素があったと思うんですよ。自分が生きてるその場所を、自分なりに語るっていう。それがさっき言ったレぺゼンだったり。自分の生まれ育った場所への誇りをベースにして、自分の生き方や「俺のラップはすごいぜ!」「みんな楽しもうぜ!」っていうのを表現するのが一番最初のヒップホップのルーツだったりするから、レポート性というか。常に新しい価値観を切り取って歌にしていく。だから言葉に価値を与えるというよりは、今ある価値観を言語化する、そのためにはおそらく情報を入れてくことなのかなと。
本当にありがたいことに、MCバトルにもいまだに出させてもらってて。10代の子(息子、娘くらいの子)とかと戦うんですよ。戦うんですけど、もう本当に面白いなと思って。悪口言われるのは嫌ですけど(笑)。ものすごい上手い子もいるし、お客さんも若い子が多かったりするから、ここでドーンって湧いたり湧かなかったりとか、「あっこういうフレーズがウケるんだ」とか、いろんな情報が入ってきて。それも一個の情報で。音楽的要素を鍛えることと、価値観を言語化するときにその際にいろんな情報を入れるっていう、そこはすごく努力していますね。
これまでのお話の中で、ベースに“感謝”がある様に感じますが、何故そうなったのですか?
これは、どこにも話していないんですけど、多分理解されないかもしれないんですけど、「音源原理主義者」なんですよ。音源、アルバム、「作った曲」原理主義者で、今まで、自分のアルバム、コラボアルバム、ミニアルバムを含めると・・12枚出してきたのかな。
毎回命がけで出してるアルバムを12回出してきたんですよ。
「これ出したら、明日事故で死んでも構わない」っていう作品を12個作ってきたんですね。これはかっこつけで言ってるのではなくて、その気持ちで本当に作ってきたから「もう良くない!?」って思って。何曲かは、世に問いかけるものになった曲はあるかもしれないけど、作ってきた12枚は一番最初からそのテンションでやってるので。それこそ試行錯誤して。お恥ずかしながら歌が下手な曲もあるし。でも、その時その時で自分の生き様を切り取って作っているから、自分として満足感は常にありました。だから、自分はもうここまでやらせてもらった、俗にいう「何とかの神様」ってあるじゃないですか。「ヒップホップの神様」がいるのであれば感謝しかなくて。「ここまで出させてくれて本当にありがとうございます」っていう感覚しかないのは、そこから来るものですね。
応援してくれる方のためですよね。
結構、僕自身がMCバトルの盛り上がりで名前を知ってもらった部分も大きいんで、そこは感謝しかないんですけど、やっぱり盛り上がりがあると、下がるものもあるじゃないですか。お客様の数も。来ては去って、来ては去ってっていうたくさんのお客さんを見てきたんですよ。それでもずっと、残って僕のことを応援してくれてる方や追ってきてくれてる方、今から新しく入ってきてくれてる若い方もたくさんいて、その方のためにずっとDOTAMAを見ていただけるように、「この人ずっと面白いことし続けてるな」とか「ずっとかっこいい曲出し続けてるな」って思ってもらえるように、そのために努力してますね。
これはかっこつけではなく本当にそう思います。
もしこの仕事をしていなかったらどのような仕事をしていましたか
あれがいいんですよ・・猫だらけのヨーロッパの島なんでしたっけ。
猫がもう何千匹いて、マルタ島か、マルタ島。
これ2年前でしたっけ。本当にマルタ島で募ったら4,000倍の倍率で。世界中から猫好きの方が応募したらしくて、こんなに猫好きの方いるんだなと思って。僕も猫を飼わせてもらってるんですけど、猫ってかわいいじゃないですか。ここは夢のような場所だなと。もちろん、動物を管理するってものすごい大変なお仕事なので、すごい大変だと思うんですけど、ちょっとやってみたいなと思って。
編集者コメント
私自身、フリースタイルダンジョンでDOTAMAさんを知ったからこそ、「音源原理主義」という言葉には驚きました。ただ、DOTAMAさんの根源にある“執念深さ”や会社員を10年経験したからこそ得た“プライド”は、制作過程を踏まえた音源への想いの強さにリンクすると思いました。「続け、身につけた末に、進む」これは仕事だけでなく人生においても大事だと改めて感じたインタビューでした。今後のDOTAMAさんの音源の聴き方が変わってきそうです!
DOTAMA
「音源原理主義者なんですよ」
会社員勤め10年を経てラッパーとして活躍するDOTAMA。
“続けること“から学ぶ彼のラッパー論とは。